ams
Automobirista(とFormula Truck 2013とGSC)
開発:Reiza Studio

 

[語れないレースシム]

 

良いところ:やればわかる
悪いところ:やらなければわからない

 

Niels Heusinkveldの名前を聞いたことがある人は、これ以降の文章を読む必要は無い。
何故ならそういう人は当然彼の功績がどんなものか、また彼がAutomobilistaにどう関わっているかもご存知のはずで、わざわざ私が書いた文章を読まなくともAutomobilistaの魅力を理解しているに違いないからだ。

 

Rubens Barrichelloの名前を聞いたことがある人は、これ以降の文章を読む必要は無い。
何故ならそういう人は当然彼の功績がどんなものか、また彼がAutomobilistaにどう関わっているかもご存知のはずで、わざわざ私が書いた文章を読まなくともAutomobilistaの魅力を理解しているに違いないからだ。

 

どちらの名前も聞いたことがない人は……そんな人が一体どうしてこんなブログを訪れているのか、こっそり教えてもらえないだろうか。

 

Niels Heusinkveld(以下Niels)はrFactorの名作MODであるSupraやNSXの挙動を担当したことで有名なPhysicsクリエーターであり、彼が所属しているReiza Studiosが発表したのがFormula Truck 2013(以下FT2013)とGame Stock Car(以下GSC)とAutomobirista(以下AMS)の3つである。
Rubens Barrichelloは「ルーベンス・バリチェロ」とカタカナで書いた方が馴染みがあるという方も多いだろう。言わずもがな、元F1ドライバーのあのバリチェロである。
バリチェロはレースシムをよくプレイしているようで、Reiza Studios系のみならずiRacingもプレイしているらしい。Reiza Studiosとのつながりは、おそらくReiza Studiosがブラジルにある関係だろう。

 

FT2013はブラジルで人気を博しているレース専用トラックの選手権である『フォーミュラ・トラック』をテーマにしたタイトルである。
重い車体故のブレーキの難しさや曲がらなさ、フロントヘビーによるトラクション不足というおよそ他のレースカーではなかなか見られない挙動はなかなか面白い。
ただいかんせん車がトラックしかないこととサーキットが南米の(多くはマイナーな)ものしかないことからか、現在Steam上での評価は賛否両論となっている。

 

一方、GSCは割と王道のラインナップと言える。
車はブラジル国内のレースカテゴリやレーシングカートからフォーミュラまで幅広いレンジをカバーしている。タイトルにもなっているストックカー(こちらもブラジルで人気のカテゴリー)も当然ある。コースにおいてもブラジル一辺倒だったFT2013とは違いF1が開催されるようなサーキットもいくつか増えた。

 

以上二つを統合し、いくらか新コンテンツを盛り込んだのがAMSである。
いわば完全版のようなもので、実際にリリース時には上記二つを所持しているプレイヤーに無料で配られた。
よって今から上記二つを新規に購入する意味はあまりない。FT2013はAMSにおいては有料DLCとしての収録なので、どうしてもFTだけをやりたいとでも言うのならば話は別だが。
以降の文章も主にAMSについて書いていきたいと思う。

 

AMSの挙動エンジンはおなじみのISIMotorである。
しかし、走行を重ねることで路面のコンディションが変化する機能であるダイナミックトラックや、前車に近づきすぎるとダウンフォースが減少するダーティエアや、コース外のグラベルに出たタイヤに草や砂がくっついてしばらくグリップが低下するダートピックアップなど細かいところに新要素が入っており、rFactorに比べれば確実に進歩している。

 

FT2013とGSCを統合し、さらに新要素を加えたというだけあって車やコースの数はなかなかに多く、「レンタルカートから800馬力超のフォーミュラカーまで」という公式の謳い文句に嘘はない。
面白いのはやはりブラジル系のカテゴリーが多くを占めていることで、このまま放っておけばブラジルのレースカテゴリー全てを収録しかねないのでは、と思わされるほどだ。
GSCから引き継いだストックカーに加え(単なる使いまわしではなく2017年仕様も追加されている)、ランサーカップ、さらには世界中でやっているF3もご丁寧にブラジルF3を収録している。
もちろんブラジル以外の車も多く、中でもF1を再現した「Formula ○○」シリーズの充実ぶりは目を見張るものがある。
葉巻型のFormula Vintage、70年代のFormula Retro、80年代ターボのFormula Classic、90年代のFormula V12、00年代のFormula V10、10年代のFormula Reiza、10年代V6ターボ(15年規定)のFormula Extreme、10年代V6ターボ(17年規定)のFormula Ultimateと、ほぼ戦後F1の全年代をカバーしている。
またAMSになってからダートトラックやラリークロスも新規に収録され、デフォルトで収録されているカテゴリーの幅の広さは随一と言っていいほどにまで拡大した。

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Formula-Ultimate。
このチームのモデルはフェラーリ。以前はもっとそれっぽい色だったのが怒られてしまったせいでこういう色に。

コースに関しては車種の増加ほどではないものの、AMSとなって増加はしている。
こう書くとコースのコースの収録には熱心でないように思えるかもしれないがそうではない。
もともとGSCの時点でコース(と車)はそこそこ多く、AMS以前の時点で既に「少ない」と思うようなことはなかった。ただAMSで増えた車の数が多いが故に相対的に少なく見えてしまうというだけである。
AMSではブランズハッチ、イモラ、アデレード、ホッケンハイムといった有名サーキットをLegendary Tracksと銘打ちDLCとしての配信が始まった。旧レイアウトも含んだこれらはなかなか好評のようだ。

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GSCから引き続き採用の例のサーキット。
「出来がリアルかどうか」より「このネーミングは適切か否か」で議論が白熱する……ということは別にない。

これを見て「車の多さがAMSのいいところか」とするのはやや早計だ。
むしろ、AMSの本当のウリとは単なるコンテンツの多さというよりも、その膨大な量の車が全てNielsの手によるものである、ということだ。
かつて初めてrFactorのNSXをプレイしたときにその秀逸さに舌を巻き、「世のMODが全部こういう出来だったらいいのに」などと途方もないことを思ったことがあるが、それと似たような状況が(さすがに「世のMOD全て」と比肩するほどの多さではないにしても)実現しているのだ。

 

これがどれだけすごいことか、ニッチなレースシムブログに来ているあなたならわかるはずだ!
……と言いたいところだが、そうした人は冒頭の注意書きにある通りここまで読み進めていないだろうことを忘れていた。
よろしい。ならばそういう方々にもわかりやすいようにまとめてみよう。
つまりこういうことだ。
1. AMSというレースシムがあり、そのゲームエンジンは数々の名作レースシムにも使われたISIMotor2である。
2. AMSには有名なPhysicsクリエーターであるNiels Heusinkveldが関わっている。
3. AMSは元F1ドライバーであるRubens Barrichelloによって絶賛されている。
以上。
実にシンプルかつわかりやすく力強い結論だろうか。
ここまでだらだら長い文章を書くより最初からこうすればよかったのだ。
AMSは買うべきだ。実績のあるゲームエンジンを使い、実績のある挙動作成者が開発し、実績のあるドライバーが誉めそやしているのだから、これがリアルでないなんてことがあるだろうか?
今(記事アップロード時)なら何故かハロウィンセールで50%オフになっているので今すぐSteamストアに急ごう!
……と言われて納得できるだろうか?

 

冒頭の注意書きに従えば、ここまで読み進めているのはNielsもバリチェロも知らない人ということになるが、実際にそういう人がこんなブログを訪れることはまずないだろう。
となるとここまで読んでくださっているあなたは
「Reizaシムの出来がいいことなんてNiels(またはバリチェロ)が関わってることからも明らかだ」
などと実際にプレイせずに断じてしまうような権威主義者では、少なくともないのだろう。もしかしたら暇で仕方がない権威主義者かもしれないが。

 

一般的に、「レースゲーム」と「レースシム」を敢えて区別する場合には、前者は「面白さのためにリアルさを多かれ少なかれ犠牲にしたもの」という意味を含むことが多い。
そうした「レースゲーム」の中には「リアル」を謳うものも少なくない。そういう使われ方をする「リアル」という言葉は「レースシム」において求められる「リアル」とは異なったものである場合がほとんどだ。
「レースゲーム」における「リアル」という言葉はしばしばグライフィックが美麗であったり、サウンドの質が良かったり、そして公式ライセンスが下りているという意味で使われる。
中でも公式ライセンスは「リアル」に説得力を持たせるものとして特に強力だ。
もし公式ライセンスがあるだけでそのタイトル全体の諸要素を全て(現実を忠実に再現しているという意味での)「リアル」と捉えてしまうならば、それは権威主義の危うさにはまり込んでしまっている。

WRC公式ゲームにおける「リアル」なラリージャパン。
そういうことで権威主義には気を付けなければ、という話なのだが、一方で多くのプレイヤーはシムの魅力を語る際に多かれ少なかれ権威に頼らざるを得ない。

 

よく言われることだが、レースシムで再現される車に実際に乗ったことのある人間はとても少ない。
ハイダウンフォースマシンは言うに及ばず、ジュニアフォーミュラに乗ったことがある人でさえ一体どれだけいるというのだ?
趣味でスポーツ走行を楽しんでいる人はその経験から「この車だったらおそらくこういう動きをするのではないか」と予想を立てることはできるものの、その経験が例えばF1の動きを完璧に予想するのに十分だろうかと考えると怪しいものがある。

 

よって多くのプレイヤーはレースシムの評価において権威に頼ることになる。
そういうことを抜きに語ろうとしても「素人のあなたが勝手にそう思ってるだけでしょ?」と片付けられてしまう。
数少ない例外はたとえばバリチェロのような、自身が権威たりえるプレイヤーだけだ。

 

このブログにおけるレースシムの評価記事ではそうした矛盾に直面することを避けるため、それぞれのシムの挙動についてはあまり詳しく書いてこなかった。
お時間があるなら読み直してほしい、どれも挙動については「いい」とか「素晴らしい」とか抽象的な形容しかしていないはずだ。
それぞれの挙動について優劣を論じることはしてこなかったし、おそらくこれからもしない。私は権威でもなんでもないため、そこに説得力は生まれないし、そもそも違いがわかっているかどうかも怪しい。
その代わりに、権威でないプレイヤーでも理解・評価のできるところ、例えばiRacingならそのレース運営システムだったり、R3Eなら我が道を行く独自性だったり、GTR2ならスクールの秀逸さだったり……というような面での評価をしてきた。

 

というわけで、今回もそうした方針でAMSの評価をしようと思ったのだが……。
残念ながら、AMSはわかりやすいウリというものがあまりない。
ここでいうわかりやすいウリとは言わば「レースゲーム」的なウリのことである。つまりグラフィックやサウンドや公式ライセンスというようなもののことだ。
AMSのグラフィックやサウンドは悪くない。公式ライセンスだってブラジル系のものが下りている。
しかしそれは「DX11による美しいライティング」とか「WTCCやDTMやGT3やポルシェ・フェラーリの公式ライセンス」といったようなものに比べれば、いくらか見劣りするのは否めない。

 

加えて、AMSはrFactorから離れきれていない。
メニュー画面でカテゴリーを切り替えようとするとロードが入る。「rFactorもロードが入ってたなー」と思い出しながらコースを選ぶとrFactorと同じ構図のタイミングモニターが現れ、コースに出ればTrackmapが出ている……。
随所にrFactorの面影が強すぎるぐらいに残っている。ISIMotor系について回る「rFactorじゃダメなの?」という疑問が頭をよぎる。

 

だからと言ってAMSにいいところがないということはもちろんない。
車やコースといったコンテンツは質も量も優れている。Nielsやバリチェロの名前を出さずとも、私にだってそれがわかるぐらいにクオリティは高い。私にはそれがリアルかどうかの判別はできないが、プレイしていて楽しいことは間違いない。
ダイナミックトラック・ダーティエア・ダートピックアップもrFactorではダメな理由として挙げられるだろう。

 

しかし、それらは実際にプレイしてみないとわからないことだ。
それの何が問題なのか? と思う方もいるだろう。その通り、AMSにとってはそれは問題ではない。この記事にとっての問題である。
このブログでは挙動に関連する事柄は原則扱わない。しかしAMSの(私が考える)いいところとは挙動に関連したものばかり……。

 

そう、書けることが何もないのだ……。

 

それでもこれだけは言っておきたいのだが……本当に、AMSはいいレースシムだ。
何がいいのか? とは聞かないでほしい。しかしここで文章を終えてしまうとただ貶しただけに見えてしまうかもしれないので、どうしても書かずにはいられなかったのだ。
曲がりなりにも評価記事として銘打っているのだから具体的な話もせずに「やればわかる」などということは書きたくない。が、そう書くほかない。

願わくば、この文章を読んでAMSに触れる人が1人でも現れんことを。魅力を語れていない記事でそれを願うというのも、変な話だが……。

2018/11/13 一部記述を修正