話を始める前にひとつ注意を。
これまで紹介してきたものとは違い、現在私はiRacingをやっておらず、復帰も(今のところ)する予定はない。
よって、これからの文章は説得力というところにどうしても欠けるところが出てくる。
それを念頭に置いて以下の文章を読むか、あるいはここで読み進めるのをやめるかしていただきたい。

 

iRacing
開発 iRacing.com Motorsport Simulations

 

[徹頭徹尾『レース』シム]

 

いいところ 快適なレースを提供してくれるシステム面
悪いところ 無い(ただしあなたがiRacingをプレイすべき人である、という場合に限って)

 

「同じところをぐるぐる回ってるだけなのに、一体何が楽しいの?」

 

レースを見ているとき、あるいはレースシムをプレイしているときにこう言われたことはないだろうか?

 

全く馬鹿げた質問である。
そんなこと言ったら野球だってサッカーだってボールを投げたり打ったり蹴ったりしているだけだ。

 

一体この、一瞬たりとも目の離せない白熱したスポーツのどこが「同じところをぐるぐる回っているだけ」と言えるのだろうか?
単独で走っている場合でさえ、ブレーキングもターンインもアクセルオンも、毎周毎周違っているではないか。
自分の周りに他の車があれば、その場所が前か横か後ろかでもそれぞれ変わってくる。
ハコのレースなら駆動方式の違いがそのまま走行ラインの違いとなるし、他にも燃料、タイヤ、路面の状態、もちろんドライバーの走行スタイルも大きく車の動きを左右するのだ……ということを力説しても大抵の場合は理解されない。
同じことを何度も聞かれるうちにもはや理解されることすら諦め、適当に相槌を打って会話を終わらせるというところまで経験された方も少なくないのではないかと思う。
gmotor
話は変わって、上の画像は私のSteamのライブラリの一部である。
写っているのは全部レースシムで、その数合計21本。
ちなみにDVD版で所持しているためSteamに登録していないrFactorとGTR2を入れると23本となる。
さて、ここでまたあのモータースポーツの妙を解さない我らが友人の登場だ。
「同じところをぐるぐる回る似たようなゲームばっかり、一体どこが違うの?」

 

よくぞ聞いてくれた。上に写ってるのは確かにどれも似通ったもののように思われるかもしれない、だがこのAssetto Corsaを見よ!
これはなんと、挙動エンジンが上の中で唯一違うのだ!
そもそもAssetto Corsaの前身はnetKar Proというシムで、こちらも非ISIMotorシムとしてその評価は非常に高く……という熱弁はやはり理解されない。
「じゃあそれは別にしても、他の22本はどこが違うの?」

 

収録車種やコースが違う。あとはFFBといってハンドルコントローラーからの手応えの味付けが違ったり、細かいUIとか……。
「コースや車なんてMODでどうにでもなるし、ISIMotor系のFFBなんてそれこそiniファイル弄ればいいだけじゃん。UIなんてどうでもいいし」

 

……。
「ほとんど同じものを22本も買うなんて馬鹿じゃないの?」

 

……その通り。全く馬鹿げた行いである。

 

例えばrFとrF2のNSX(rF2のNSXは元はrF用のMODである)を同じコース(例えばToban)で乗り比べて挙動の違いを事細かに言い当てることができるほどの腕は私には無い。
rF2からはタイヤの変形が新たにシミュレートされているが、私がそれをはっきりと感じ取ることができるのはリプレイでタイヤが変形している様子を見る時だけである。
そんな人間が3000円以上出してrF2を買う必要は果たして本当にあったのだろうか?

 

もちろんDTMやWTCCをプレイしたい人がR3EのDLCを買うように、新タイトルで新たに実装されたコンテンツを楽しみたいという理由もあるだろう。
しかしそれら有名カテゴリーはわざわざ買わずともMODがあるではないか。
3Dモデルが求めている車の形をしていて、挙動が著しく非現実的でなければ、それで我慢するというのが賢いやり方ではないのか?

 

gMortorでないACでも同じように「買わない理由」を言うことはできる。この場合買うべきでないとされるものはDLCである。
Kunos Simulazioniはポルシェパック、ジャパニーズカーパックと精力的にDLCをリリースしているが、それらに収録される車は既にプレイヤー側からMODという形で配布されているものも多くある。
もちろんMODのクオリティは玉石混交で、そのうち玉と呼べるものは多くなく、対して公式DLCは得てしてある程度の質(それはかなり高いレベルにあることは言うまでもない)が保証されているといった違いはある。
だがDLCとなる車は大抵の場合人気車種・人気コースである。人気ということはそれを望んでいる人が多く、そのMODを作ろうと思い立つ人も多く、その中に非常に高い技術を持ったMODerがいる可能性も高くなるに違いない。
よって玉石混交とは言うものの、公式DLCよりも出来がいいMODというのも確かに存在する。そしてプレイヤー数の多いACではそうしたMODは決して少なくない。
もちろん少々出来が悪くとも前述したように、3Dモデルがそれらしく挙動がおかしくなければそれで良しとするという方法を取るならば、DLCの内容とほぼ変わらない車種・コースをMODだけで揃えることも可能だろう。
よってDLCは別に買う必要が無い……と結論づけるのはやや乱暴だが、DLCを買わない理由として以上のような状況は十分にその役割を果たす。

 

無論細かな違いを精緻に捉えられる人、あるいはそうでないながらも納得づくで購入している人はいる。
しがし一方で違いを感じ取ることができず、ただなんとなく新しいタイトルやDLCを買っている人(私のような)は、「一体私は何を買っているのか」という問いに対する答えを持ち合わせていないのではないか。
私の場合は購入したことを後悔する気持ちと、あれはお布施だったのだとする気持ちを行ったり来たりしながら、結局買ったものは気が向いたとき、ごく稀にしかプレイされないことが多い。

 

そんな鬱屈した思いを抱えているにもかかわらずなおもシムを買い足している私だが、ことiRacingにはそういう思いを抱かなかった。
何故かと言うと、iRacingは何に対してお金を払っているのかが明確だったからだ。

 

iRacingの大きな特徴は徹底してフェアなモータースポーツを構築しようとしているそのシステムにある。

 

予選で好成績を収めたあなたはグリッドの前の方からスタートする。
ブラックアウトの瞬間絶妙なクラッチミートを決め1コーナーへなだれ込んで行く中で、周りの車の動きを警戒しながら最大限ブレーキを遅らせてコーナーに侵入。
幸い横に並んだ相手はこちらにスペースを残してくれている。このままいけば抜けるか……?
と、ターンインを今まさに始めようとしたところに止まり切れない後続車が突っ込んできてクラッシュ。
飛んでくる”Sorry”のクイックチャットに「クソが!」と毒づきながら”NP”を設定したキーを押す……といったレースシムでの一場面を思い描くことはそう難しくない。

 

しかし多くのレースシムではこうしたケースにおいてレース結果からの除外やタイム加算というそのレースに関するペナルティが下されることはあるものの、
ぶつけた側のプレイヤーにモラルハザード的ペナルティが下されることはない。
あなたにぶつけたプレイヤーは”Sorry”の後にさっさと部屋を抜け、別のレースに私は優良プレイヤーでござい、とばかりに何食わぬ顔で参加することができてしまう。

 

こうした事態に対し、現実のモータースポーツのように危険なドライバーを危険なドライバーであると周知させることを可能にするのがiRacingのSafety Rating(以下SR)システムである。
SRはドライビングのクリーンさを表す数値である。
コースオフで1ポイント、スピンで2ポイント、接触(軽い接触はセーフ)で4ポイントといったようにコース走行時のインシデント毎にポイントがあり、レースが終わるごとにそのレースで得てしまったポイントが多いほどSRが大きく下がる。
ちなみに一定の量(確か17ポイント)をひとつのセッションで得てしまうとブラックフラッグ、退場となりもちろんSRはがくんと下がることになる。

 

このSRはドライバーのクラスというものに関わっている。これは現実でのライセンスに相当するものである。
開始時はルーキークラスからスタートし、そこからD、C、B、A、Proとクラスが上がっていく。
ドライバーのクラスが上がれば上がるほどプレイヤーはより速い車でのレースに出ることが可能となる。
iRacingでは12週間をひとつのシーズンとし、そのシーズンの終了時にSRが一定以上ならば上のクラスへと昇格することができるという仕組みになっている。
この仕組みによって始めたばかりの初心者がいきなりF1のレースに出るというようなことはできない。
現実のモータースポーツと同じように、そこまでたどり着くにはそれ相応の(インシデントを回避するという)腕を持っていなければならないのだ。

 

ここまで説明したところで、以下のような疑問を持つ方がいるかもしれない。

 

「ある程度クリーンなドライビングをしていなければ上のクラスに上がれないということはわかった。しかしそれならば、下のルーキークラスやDクラスは下手くその吹き溜まりとなっているのではないか?」

 

ご安心を。そうした問題を解決し、さらにどのプレイヤーにとってもコンペティティブなレースを提供するものとして、iRacingにはiRating(以下iR)というシステムもある。
iRatingはレースの成績から算出される数値であり、こちらはドライバーの速さや強さを表していると言っていいだろう。
この数字は予選やレースの結果によって上下し、当然好成績ならば上昇し、その逆ならば下降する。
そして重要なのは、iRacingではこのiRの数値によってレースでの対戦相手が決まるという点である。
iRacingでは特定の部屋を選択してそれに参加するという方式ではなく、レースに参加を表明したプレイヤーの内でiRの数字が近いプレイヤー同士がマッチングされる。
あるレースに参加を希望したプレイヤーが100人いたとしたら、そのプレイヤー達のiRを高い順に並べ1位から10位までがレースAの参加者となり、11位から20位までをレースBの……といった具合に同じレースが10個同時に開催される。
このシステムにより誰もが自分の腕と近い相手とレースを戦うことが容易となっている。
そしてこのiRはこれまでの予選やレースの結果から算出されるが故に、どうしてもマナーの悪いドライバーは上がりにくいという性質を持っている。
クラッシュしてどこかサスペンションにダメージを負えばペースは大きく落とさざるを得なくなり、上位でのフィニッシュは望めない。
あるいはクラッシュでそのままリタイアする、またはやる気を無くして部屋から抜ければ順位はその時点での最後尾が確定、よってiRは下がる、といった具合である。

 

以上ふたつのレーティングシステムにより、iRacingではマナーの悪いドライバーへのペナルティが重く、そうしたドライバーには自分がマナーよく振舞っている限り出会いにくい構造となっている。
こうしたレーティングシステムはR3EやrFactor2が導入に動き出していることから見ても、有用性は間違いなくあると言っていい。

 

もうひとつiRacingの大きな特徴として、実名制を採用していることが挙げられる。
匿名が当たり前の世界でこれはなかなか抑止力として機能しているように思える。自分の本名を晒しながら(そして安くない金額を払いながら)、荒らし行為を続ける人などそうはいない。
ただ、あからさまな偽名のプレイヤーもいないわけではなかったが……。

 

しかしもしも運悪くそうした荒らしに出会ったとしてSRが下がったとしてもProtestというシステムがある。
これはその名の通り抗議のシステムであり、マナーの悪いドライバーによる被害を運営に訴えることができる。
その抗議が認められればそれ相応の罰が相手に下るだろう。
ただ、そこまですることは稀かもしれない。
私は二年間プレイした中で嫌な思いをしたことはなかった。上記のProtestの説明があまり詳しくないのも私は実際にProtestを申請したことがないからだ。
逆にiRacingにはいい思い出しかない。1位になったとき2位のプレイヤーから「おめでとう」と言われたり、逆に最後まで決め手を欠き2位になったとき1位のプレイヤーから「いいバトルだったね」と言われたり。

 

一方で悪いところというわけではないが、価格はiRacingについてネックとして挙げられる。
iRacingは他のシムとは違い買い切り制ではなく契約制であり、数か月あるいは数年ごとに一定の料金がかかる。プランによって違いはあるが目安としては1年あたり100ドルといったところである。
ACやrF2やAMSがどれも約3000円で買い切りであることを考えると安くはない。
コンテンツの価格も高額だ。一車種・一コースの価格がそれぞれ1000円以上である。
ただし、個人的にはこれがとてつもなく高額だとは全く思わない。
確かに絶対的な金額として他に比べて高めではあるが、受けられるサービスに照らし合わせて考えれば決して割高ではないだろう。

 

iRacingのコンテンツはDLCというよりも、ある種の権利の販売という面が強いように思える。
特定のカテゴリー・特定のコースで行われる、イコールコンディションが保たれたレースに参加する権利とでも言うべきものだ。
現実のモータースポーツで言うならば、ワンメイクレースのための車両を購入するようなものと言えばわかりやすいだろうか。

 

しかしイコールコンディションを謳っている現実でのワンメイクレースさえも、それがモータースポーツである以上道具の優劣というものは必ず存在する。
例えば当たりエンジン・外れエンジンなどの個体差は工業製品たる車において生じないことはない。
他方iRacingはレースシムであるが故に現実の車両にある個体差が無く、こっそりレギュレーションに違反する不正を行うこともチート対策が為されているために難しい。
言わば現実以上にイコールコンディションの保証された理想のレースである。本当に腕さえあればどこまでも上を目指せるレースを戦えるのだ。そこには現実のレースに存在するしがらみは一切無い。

 

断言してもいい。オンラインのレースをしたいのならば、iRacing以上の選択肢は現在存在しない。
あなたがレースをすることを好きならば、今すぐにでもiRacingを始めるべきだと強く推奨する。

 

ここから先の文は別に読む必要は無い。ただここまでこの文章の中で答えられなかった問題に対する答え(とてつもなくどうでもいいこと)が書いてあるに過ぎないためだ。

 

「iRacingはそんなにいいものなら、なんであなたは今iRacingをやってないの?」

 

割と最近気づいたことなのだが、どうやら私はレースをすることが好きではない。
私が好きなのはレースをすることではなく、ドライビングそのものなのだ。
ステアリングとペダルと場合によってはシフトレバーを使って私の意思を車に伝え、車から情報を感じ取る。それを受け取ってまた新たな操作を加える。それが楽しいのだ。
その行為には他車の存在は必ずしも必要ではない、というよりもむしろ他車は邪魔になることが多い。
サイドバイサイドでは好きなラインを取れない。テールトゥノーズでは好きなタイミングでブレーキングができない。
特にテールトゥノーズの後ろ側をやっているときは最悪だ。追突しないためにはコーナーに差し掛かるたびに相手より早い地点でブレーキングしなければならず、抜くときには接触のリスクを冒して強引なラインを通らなければならない。
そんなドライビングは全く楽しくない。それを私に強いる相手は、一体何の権利があって私の前を走っているのだ?
「あなたより速いからじゃないの?」

 

……。

 

iRacingは「何を買っているのか」という問いに対して明確な答えとなる公平なレースを実現するためのシステムを持っている。
しかしそれは裏を返せばレースに興味が無ければ意味を為さないものである。
もちろんiRacingにはレーザースキャンのトラックや、実車の開発にも寄与した挙動シミュレーションといった魅力もある。
レースに出なくてもそれらをプラクティスやタイムトライアルで楽しんでいるプレイヤーがいることも知っている。
ただ、それらのためだけに1年100ドルは私には出せない。
それが何故かは最初に述べた通り、それらが既に所有する別のシムで代替可能だと私は考えているからだ。

 

心底どうでもいい私の止めた理由は以上である。
ともかく、iRacingはレースにかけては本当に右に出るものはない。
なので、未だプレイしたことがなく、レースをすることが好きだという人にはぜひ一度はプレイしてもらいたい。
これまで散々高額だと書いてきたが、一か月のプランならばSteamで980円(新規の場合)と手の出しやすい価格となっている。

長期契約ならばブラックフライデーの時期に毎年値引きがあるのでそのときに2年契約をするのがいいだろう。