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Assetto Corsa
開発:Kunos Simulazioni

[曲者揃いの現世代シムの中で珍しく普通なシム。それが物足りない人がいるかも]

良いところ:フェラーリ・ポルシェを初めとした良質な収録車種・コース

悪いところ:コアなユーザー受けする要素が少ない

 

一昔前(2010年あたり)、レースシムといえばrFactorだったように思う。
その次に僅差でGTR2が続き、Raceシリーズ、GTL、その他というような具合だった。

 

それから時代は移り、今やレースシム界は群雄割拠。
ここにかつてのような一強と呼べるようなタイトルは無いように思う。
rFactor2はリリース当初はとんでもなく重く、進化したタイヤモデルは気軽にMODが作りにくくなるという事態を招いた。
GTR3はティザー以降音沙汰が無く(後にひっそりとポシャった)、替わりに出てきたR3Eも当初は酷いものだった。
iRacingは簡単に手を出せるような価格ではない……。
そんな中、かつてrF、GTR2の二大巨頭の陰に隠れ、「その他」に紛れていたデベロッパーの送り出したシムがこの大戦に名乗りを挙げたのだ。

 

Kunos SimulazioniはかつてnetKar Pro(NKP)と呼ばれる比較的マイナーなシムを作っていた。
最初のバージョンのリリースは2006年であり、これはrFactorやGTR2の少し後となる。
現在ではNKPは更新を終了しており、最終バージョンであるV1.31がフリーソフトとして無料でプレイできる。
プレイしてみると、なぜこれが評価されなかったのかと思うほどに出来がいい。
確かにコースも車も少なく、グラフィックも現代の基準を持ち出すまでもなく、特にrFやGTR2より優れているとも思えない。しかし挙動はそれら二つに全く引けを取らず、FFBの自然さや雨の設定ができるところなど、十分に勝っている部分もあると感じられた。
特に雨は素晴らしい。GTR2と比較すると雨に関してはなにもかもNKPのほうが上だと断言できる。
雨量を最大にすれば視界は極端に悪くなり、ブレーキングの目安となる看板や縁石はほとんど見えなくなる。路面には水たまりがいくつかでき、その上にタイヤが乗るとアクアプレーニングを起こしたりホイルスピンしたりする。GTR2のようにただ少しだけ空を薄暗くして、路面全体をドライ状態から一律グリップを下げたようなものとは違う、かなり凝ったつくりをした力の入ったものである。
trento
ACにおいて数少ない(唯一?)NKPから再収録した要素であるヒルクライムコース、Trento-Bondone。

 

しかしこれほどいいシムにもかかわらず、NKPは先の二つほどは売れなかった。
これがなぜマイナーな地位に甘んじたのか、という問題について面白い考察がRaceDepartmentにあったので引用する。
forum
The answer is precisely because of their experience with NKPro. They added rain and it had little impact on sales. They added a Fiat 500 and it had a big impact on sales. Conclusion: sim racers are far more interested in licensed content than rain. The sales success of AC without rain does seem to confirm their motto that everyone wants to race in the rain in the dark, but only once.

 

(中略)開発チームはウェット路面で走れるようにしたが売り上げへの貢献はわずかなものだった。一方でフィアット500を追加したら大きく売り上げが伸びた。
つまり、シムレーサーたちはウェット路面で走れることよりも、実在メーカーからライセンスされた車に乗れることのほうに関心を寄せているということだ。
ウェット路面の無いAssetto Corsaの商業的成功は、「誰しも雨の中、視界のほぼ無い状況でレースをやってみたいと考えている。ただし、一度で十分だが」という開発チームの考えが正しいことを証明しているように思える。

 

上記のフォーラムへの投稿は2015年5月のものだが、確かに一年以上経った現在もAssetto Corsaにウェット路面の設定は(公式としては)無い。
その代わりにKunosが力を入れているのは、やはりこの投稿からもわかるようにライセンスされた車を登場させることだ。それは裏を返せばNKPにはあった架空車を排除するという意味も含んでいるが。

 

ただライセンスされた車ならそこまで珍しくもない。レーシングカーが実名で出ているのはそれこそ他にいくらでもある。しかし市販車となると、現在Assetto Corsa以上に収録しているPCレースシムはなかなかない。
そのラインナップがカバーするレンジは、大衆車からスーパースポーツまで、あるいは旧車から最新の車までと幅広い。もちろんその中には日本車もあり、その数は少なくない。Japanese Car PackというDLCも発売されたほどだ。
levante
ついにはSUVまで収録。
レースシム(バニラ)のスクショですと言われても信じがたい一枚。

 

そしておそらくAssetto Corsa一番の目玉は、フェラーリとポルシェの収録だろう。
GTR2がSteamに登場したとき、ライセンスの問題か、フェラーリとポルシェが使えなくなっていることが話題になった。しかしこの使えなくなっている車が他のメーカーだったら特に話題になることもなかったのではないか?(もっともGTR2の収録車種のうち約1/3をこの2メーカーが占めていたという理由もあるが)
そうした勝手な想像を持ち出さなくとも、この二つのメーカーの車はどこも収録したいと考えているに違いない。そうでなければ、RT12R GT3やP4/5 Competizioneのような車を複数のタイトルで見かけることもないはずだ。これらはフェラーリとポルシェを収録したいけど許可が出ない場合によく使われる、言い方は悪いが苦肉の策である。
そんな苦肉の策を尻目にACは比較的早くからフェラーリを収録していたし、ポルシェはまだ収録こそされていないものの、先日DLCをアナウンスするPVを大々的に公開している。
これら二つの収録は他タイトルに比べかなりの強みと言える。
rufp45
ちなみにACにもRufとP4/5はある。

 

もし御眼鏡に適う車が無かったとしても、そこはMODの出番となる。好きなものを追加すればいい。
ACのMODはかなり充実している。流石にrFやGTR2よりも多いとまではいかないが、現世代のタイトルでは一番だろう。

 

もうひとつ個人的に良いところとして挙げたいのは難易度設定の中のひとつ、Factoryである。
ABSやTCなどドライビングアシストを使用するかどうかの設定ができるというのはよくある方法だが、ACではそれらに単なるオンとオフだけでなくFactoryという項目を設定している。これは車種によってABSやTCSを使うかどうかを自動で決めてくれるというもので、使用するかどうかは実車に基づいて決められる。
つまり最新の車ならばABSもTCもオンになり、古い車ならば両方オフになるといった具合である。これは実際にプレイするといちいち車種を変える毎に設定し直さなくてもよくなり、かなり便利だ。

 

さてここまでACを褒めちぎってきたが、恒例の悪い点についても述べなければならない。
ACの悪いところは……えーっと……。

 

ここにきて、私は答えに詰まる。
これまで記述したラインナップ以外にも挙動、サウンド、グラフィックなどあらゆる要素全てでACは高度なレベルにある。ACに特別不満なところは無い。何一つとして。
非常に優等生的なこのタイトルはガチガチ一辺倒、合わない奴はやらなくてよい、という感じのレースシム界において異質である。まるでコンシューマ向けタイトルのようだ。事実ACはPS4/XBOX One向けソフトのリリースを控えている。
言わば良くも悪くも万人向けなのだ。そしてNKPから雨が引き継がれなかったことを嘆く私には、その万人向けな姿勢が少しだけ「悪い」と映る。

 

PCレースシムについて紹介するページを見ると、たいてい以下のような文章を目にすることとなる。
「PCのレースシムではMODという有志の作ったデータを導入することによって好きな車やコースでプレイすることが可能です」
このような文章からもわかるように、豊富な車種の収録はコンシューマに任せそれでも満足できない層を拾うというのがこれまでのレースシムのあり方であり、ACはそこにコンシューマのやり方を持ち込むことで成功した。
そして満を持してコンシューマに挑むのだが、GTとForzaという二大巨頭の前で、それらと同じやり方で小さなスタジオであるKunosが通用するのか。私はそれが少しだけ心配だ。
しかし私はACのコンシューマ進出が成功となることを望んでいる。
コンシューマ版が大ヒットを飛ばしてくれればその売り上げを素晴らしいレインコンディションの開発費に回してくれるかもしれないからだ。
もっとも、新しい車やコースのライセンス料となるかもしれないが……。