RACEシリーズ(画像はRACE 07)
開発 Simbin
[偉大な先駆者の影に隠れてしまった不遇なタイトル。出来は悪くはないのだが……。]
良いところ:膨大な量のコンテンツ
悪いところ:ウリがそれしかない
私がレースシムを始めるきっかけとなったのはWTCCだった。
2008年、岡山国際サーキットで開催されたWTCCの観戦によって、一発でそのレースの魅力に取り憑かれた私は家に帰るなりGoogleの検索窓にWTCCと打ち込み、出てきたページを片っ端から読み耽った。
そのうちにとあるレースゲームの動画を見つけた。岡山国際をWTCCのシボレークルーズが走っていた。
マイナーなサーキットとマイナーな車(と当時は思っていた)が収録されていることに驚いたが、それよりも驚いたのは実際のラップタイムとほぼ同じタイムが出ていたことだった。
私はその動画タイトルに書いてあったタイトルをコピーして検索し、この世にレースシムなるジャンルが存在することを知った。
その動画のゲームはレースシムの中でも一二を争うほどリアルなものだという評価を目にした私は迷わずそれを注文した。
そうして私のレースシムキャリアは始まったのだった。
RACEシリーズは主にWTCCを題材にしている。主に、と書いたのはこのシリーズは構成がやや特殊なせいである。
シリーズと言っても実質はRace: The WTCC GameとRACE 07の二作しかなく、それらにDLCを追加していく形となる。
ちなみにRACE07にはRace: The WTCC Gameの全てのコンテンツがDLCを含め入っているので、The WTCC Gameを買う必要は今となってはあまり無い。
とにかく、ここでRaceシリーズとして扱うのは
Race: The WTCC Game
RACE: Caterham Expansion
RACE07
RACE07 – Formula RaceRoom Add-on
RACE07: Andy Priaulx Crowne Plaza Raceway
GTR Evolution
RACE On
Race Injection
STCC: The Game
STCC Ⅱ
The Retro Expansion
The WTCC 2010 Pack
以上である。
RACE07全部入り。
RACEシリーズの魅力は何かと問われれば、コンテンツの豊富さだと答える。
試しに数えてみたところ、Race 07の全てのDLCを入れた状態で125車種・92コース(年式違い・レイアウト違い含む。カラーリング違いは含まず。数え間違いがあるかもしれない)。年式違い・レイアウト違いを含むというやや水増しじみた計測方法だが、この数字はレースシムでは驚異的だ。
参考までにrFactorが12車種、GTR2は24車種である。コース数はレイアウト違いを含まずにそれぞれ16、15。レイアウト違いは数えていないがもし入れたとしても当然遠く及ばないだろう。
RACEシリーズだけ細かな違いを含む計測方法であることはお詫びしたい。
しかし実を言うと、そもそもこうした曖昧な計測方法に頼らざるを得ないのも、あまりの多さに重複しているものを数えるのが面倒になったからである。
そんな手抜きは許さん、あるいは我こそはと思う方は是非挑戦してみてほしい。もれなく私と同じ気持ちになるだろう。
閑話休題。このことからもその多さがいかに桁外れかわかっていただけるのではないか。
これだけ多いと中には変なのもある。謎のフィンランド人、ヘンリ・トイ『ヴァ』ネン。
MODが導入できるPCレースシムではデフォルトコンテンツの多寡というのはそれほど重要ではないと思うかもしれない。
しかしそれら全てがSimbin謹製だということは大きな意味を持つ。
MODというのは有志の作ったものである。穿った見方をすれば、どこの馬の骨とも知れない人間が適当に作ったものであろうと、MODはMODである。
しかしデフォルトのコンテンツはデベロッパーの評判を左右する。当然適当なものを作ってしまうわけにはいかず、そのおかげでどれもクオリティの高いものが揃っている。
白眉はやはりニュルブルクリンク・ノルドシュライフェだろう。今でこそノルドシュライフェがAssetto CorsaやiRacing(予定)で純正コンテンツとして採用されることも珍しくないが、RACEシリーズ(正確にはGTREvo)のリリース当時はそれこそGTかForzaにしか無かった。
またその他の車やコースもよそではあまりお目にかかれない、よく言えばマニアックな独自色の強いラインナップである。
例えばSTCC。スウェーデンというとあまり我々日本人には馴染みのない土地であり、かくいう私も初めてその存在を知ったのだが、これが中々面白い。
S2000規定のマシンは乗りやすく、かと言って簡単にタイムが出るというわけでもない。同じS2000のWTCCと比べて車種が多いのもSTCCの魅力のひとつだ。
そしてSTCCのコースは多くが一周一分ほどの狭く短いサーキットであり、自然とあちらこちらでバトルが展開されることとなる。
他にもハコのイメージが強いSimbinには珍しく、RACEシリーズにはオープンホイールもいくつか用意されていたり、グンペルトやケーニグセグなどのスーパーカー、さらにはもう少し親しみやすいカマロやCTSなどレースカーでない市販車もある。
Simbinには珍しいフォーミュラのひとつ、RR1。2.5LV8エンジンを搭載。
CTS。曲がらない止まらない(加速はまあまあ)という市販車特有の重い動きは新鮮。
さてここまでRACEシリーズのよいところを挙げてきたがもちろん悪いところもある。
まずコーナーマーカー。
これはコーナーの前で次のコーナーがどちらにどれだけ曲がっているのかを教えてくれるものである。
これだけ聞くと便利そうだが、実際は表示されたときにブレーキングを開始したのでは間に合わないということがよくある。
次にユーザーインターフェース(以下UI)。これはGTR2から確実に劣化している。
トップ画面にPRACTICEモードがない。どこにあるかというと、ADDITIONAL EVENTSを選択すると出てくる。ここまではまだいい。
問題はR-CADE EXTREMEモードが何故トップにあるのかだ。
R-CADE EXTREMEモードとはWTCCの車両をベースにした架空ツーリングカーでレースを戦うモードである。
別にやることが変わっているわけではない、単なる使用する車が決まっているだけのモードなのだ。TMマークがついているあたり、これを推していきたかったのかもしれないがこれがトップにある必要はどこにもない。
セッティングを出したりコースを覚えるのに便利なPRACTICEモードに素早くアクセスできるようにしてほしかったというのが正直なところだ。
UIの酷さはモードを選んだ後も目に付く。GTR2ならばモードを選んだ後は車、コース、サマリーなどをひとつの画面で管理できた。
しかしRACEシリーズではコース→車→サマリーとなり、例えばサマリー選択画面でコースを選びなおしたいと思ったら、わざわざ最初のコース選択画面まで戻らなければいけない。
なにより使いづらいのは車選択画面で、カテゴリーを選ぶ→車を選ぶ→カラーリングを選ぶとこれまた何層にも分かれている。
GTR2ならクラスを選んだ後は全てがひとつの画面で選べ、特定の車種だけを表示するのもワンクリックで済んだ。
また車種が多い場合もGTR2のようにスクロールさせるのではなくページ制となっていて、しかもページを送るためにはボタンをクリックするしかないため実に面倒だ。
それと個人的に岡山の再限度はイマイチだと感じる。ウィリアムズコーナー(2コーナー)は確かにうねってはいるが、あそこまで大げさではない……と思う。
そしてRaceシリーズには最大の欠点がある。
冒頭で私が見つけたゲームの動画の話をした。
2008年にWTCC観戦から帰ってきて岡山をクルーズで走る動画を見つけた……。
勘のいい方、あるいはWTCCというカテゴリーやRACEシリーズに詳しい方なら気付いたかもしれない。
2008年シーズンのWTCCを再現したRace Onのリリースは2009年である。
種明かしをすると、その動画で使われていたのはRACEシリーズではなくGTR2だった。
使われていたコースも車もMODによるものだったのだ。
Raceシリーズ最大の欠点とは、他に対してのアドバンテージが少ないことだ。
ここまでに述べてきたRaceシリーズのいいところ、コンテンツの豊富さというアドバンテージは確かに存在する。
しかしそれが魅力を保つためには「rFactorやGTR2を所持していない、あるいは全くのバニラでしかプレイしていない場合のみ」という条件が必要だ。
あまりにも偉大なふたつの先行タイトルの持つ拡張性、圧倒的な量のMODの存在によって、RACEシリーズの優位は奪われてしまっている。
冒頭の私が発見した動画はおそらくコンバートMODを使ったものだったのだろう。(この記事を書くにあたり探したが見つからなかった)
コンバートでなくとも、似たようなMODはrFactorとGTR2向けにいくらでもある。
RACEシリーズを買うかどうか迷っている人に「rFactorかGTR2じゃダメなの?」と聞かれたとして、「ダメだ!」と胸を張って言える要素を、私はRACEシリーズに見つけることはできなかった。
RACEシリーズを買うかどうか迷っている人に「rFactorかGTR2じゃダメなの?」と聞かれたとして、「ダメだ!」と胸を張って言える要素を、私はRACEシリーズに見つけることはできなかった。
素晴らしきMOD文化は、レースシムというジャンルにおいては必ずしもいいことばかりではないのかもしれない。
RACEシリーズの何が駄目というわけではない。挙動もサウンドもGTR2から変わらずいい。
そう、変わらず。ほとんど変わっていないのだ。それこそがRACEシリーズの最大の弱点となってしまっている。
発売から大分時間のたった今ではRACEシリーズはかなり安くなっている。
SteamでRACE 07の価格は398円。しかし個別に買うのではなくSimbin Mega Bundleをセールで買うのがいいだろう。もちろん単品で買っても何も問題はないが。
私はbundlestarsでたしか3ドルぐらいで買うことができた。参考までに。
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